分子標的薬で神経免疫疾患は完全寛解できる時代に!
Emerging therapies to target CNS pathophysiology in multiple sclerosis. Nat Rev Neurol.
2000年9月に多発性硬化症の再発予防および進行抑制を適応とする遺伝子組換え型インターフェロン-β-1b製剤「ベタフェロン皮下注用960万国際単位」が発売され、それまで急性期のステロイド治療以外に治療のすべがなかった多発性硬化症患者の予後を劇的に改善しました。それから四半世紀の月日が流れ、インターフェロンβによる再発頻度の軽減が目的であった時代から、再発はもちろん、進行や脳萎縮の全くない完全寛解を目的とした時代へと変遷しています。
多発性硬化症の病態は不明なままですが、ナタリズマブ、フィンゴリモド、オファツムマブなどによる強い臨床効果から、中枢神経へのリンパ球の侵入を止めれば炎症を防げることが分かっています。また、多発性硬化症の炎症はT細胞とB細胞の両方の関わりがあること、発症早期のこれらの治療開始がより効果的であることも分かっています。一方で、活性化したリンパ球、特にT細胞を完全に中枢神経からシャットアウトしてしまうと、JCウイルスの増殖を防ぐことができず、進行性多巣性白質脳症(PML)が生じてしまいます。
これに対し、主にBリンパ球に発現するCD20にターゲットを絞ったオファツムマブなどのB細胞除去療法はPMLのリスクを上げることなく非常に強い効果が得られます。CD20は骨髄内のPre-B細胞から形質芽細胞の一部まで発現しており、これらのB細胞系列の細胞が体内から除去されます。したがって、未知の抗原に対して新規に抗体を産生する機構が抑制され、新興感染症に対して免疫が付きにくいなどの懸念がないわけではありません。
近い将来、基礎研究の発展とともに、病態の核心となっているリンパ球のサブクラスなどをターゲットにした分子標的薬が開発されることでより安全に、より効果的に多発性硬化症の活動性を止めることができるようになるでしょう1)。(文責いちなか)
1)Oh J, Bar-Or A. Emerging therapies to target CNS pathophysiology in multiple sclerosis. Nat Rev Neurol. 2022 Aug;18(8):466-475.