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アルツハイマー病と多発性硬化症は同じ原因?

Alzheimer's disease and multiple sclerosis: a possible connection through the viral demyelinating neurodegenerative trigger (vDENT). Front Aging Neurosci.

アルツハイマー病(AD)の薬は、2011年に現在の4剤が出揃って以降、新薬の登場はありませんでした。2023年8月21日にアミロイドβ (Aβ)抗体薬のレカネマブが厚労省で承認されたことで、期待が高まっています。しかし、Aβ除去は認知機能を回復するものではないため、別の治療アプローチも必要です。AD脳内の病態機序について興味深い最近の総説があったので紹介します(1)。

海外の疫学研究で、HSV-1感染による認知症発症リスクの上昇が報告されており、HSV-1以外にも、VZV、EBV、CMV、HHV-6なども認知症リスクに影響する可能性が指摘されています。また、Aβ、Tau、ApoEがミエリン・オリゴデンドロサイトの障害にも関わることも最近注目されています。一方、多発性硬化症(MS)の病因としてウィルス感染、特にHSV-1の関与が提唱されています。また、慢性進行型MSでは、加齢とともに脳萎縮や認知機能低下も目立ってきます。このように、一見無関係な両疾患には意外と共通部分が多いようです。そこで、著者らは図のようなviral Demyelinating Neurodegenerative Trigger (vDENT) モデルを提唱しています。左が一般に考えられている病態で、HSV-1などの感染はMS発症リスクだけでなく、長期的にはAD発症リスクにもなるというものです。右のvDENTモデルはさらに大胆に、HSV-1感染は、若年時はMS発症に関わり、さらに加齢とともにウィルス再活性化が繰り返しAD発症を惹起するというものです。やや荒唐無稽で簡単には納得しにくいですが、高齢発症MSは稀なこと、ADは高齢になると急増することを考えると、加齢による脳内環境変化が両疾患の発症を分けている可能性はあります。一方、Aβはウィルス感染に対する自然免疫のeffector immunopeptideであり、AD脳の慢性炎症は過剰な自然免疫反応とする説もあります。したがって、認知機能回復のためには脳内の免疫異常の修復も必要でしょう。ADを始めとする認知症の病態解明や治療薬開発は今世紀最大の社会的課題の一つであり、今後さらに分子標的薬や免疫・代謝制御薬などの開発が進み、認知症の疾患概念も激変するかもしれません。(文責:やぎ)

1)Boukhvalova MS, et al. Alzheimer's disease and multiple sclerosis: a possible connection through the viral demyelinating neurodegenerative trigger (vDENT). Front Aging Neurosci. 2023, 15: 1204852.
図)上記文献より改変