日本神経学会 residentホームページ

抗プロトフィブリル抗体 レカネマブ の作用機序の一端が明らかに

Structural Dynamics of Amyloid-β Protofibrils and Actions of Anti-Amyloid-β Antibodies as Observed by High-Speed Atomic Force Microscopy.Nano Lett 2023

認知症の中でも最も頻度の高い疾患がアルツハイマー病(AD)であり、現在使用可能であるコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA拮抗薬は対症療法に留まるため、ADの進行そのものを修正できる疾患修飾療法(disease-modifying therapy:DMT)の登場が期待されていました。

ADの病理学的特徴としては、アミロイドβ(Aβ)から成る老人斑、タウから成る神経原線維変化、さらに神経細胞死があげられます。病態においては、特にAβが異常凝集することで、神経原線維変化、神経細胞死、そして認知症へと繋がるとされるアミロイド仮説が提唱されています。従来脳アミロイドとして蓄積する不溶性線維よりも病態に関わる凝集体としてオリゴマー、特に高分子オリゴマーであるプロトフィブリルに注目が集まっています。

軽度認知障害および軽度AD患者を対象とした臨床第3相試験において実薬(レカネマブ)群がプラセボ群と比較して有意な臨床効果を示したことを受け、2023今年1月6日の米国承認に続き、9月25日、ついに本邦でも承認されました。今回紹介する研究では、「高速原子間力顕微鏡」を用いて、レカネマブが天ぷらの具材をコロモで包み込むようにしてプロトフィブリルに結合することを直接可視化することに成功しただけでなく、レカネマブが結合することでプロトフィブリルによる細胞毒性が軽減することが明らかになりました(図1)。レカネマブに包み込まれたAβは、免疫細胞に貪食されやすく、神経細胞膜への接触も抑制されることが考えられます。

レカネマブの作用機序の一端を明らかにしたこの研究の成果は、ADだけでなく、パーキンソン病など他の蛋白蓄積病に関しても病態蛋白を標的にしたDMT開発に新たな道が開けてくる可能性があると期待しています。(文責 おのけん)

1) Watanabe-Nakayama T, et al. Structural Dynamics of Amyloid-β Protofibrils and Actions of Anti-Amyloid-β Antibodies as Observed by High-Speed Atomic Force Microscopy.Nano Lett 2023, 23: 6259-6268.

図1:レカネマブ投与後のプロトフィブリルのAβイメージ像
Watanabe-Nakayama T, et al. Structural Dynamics of Amyloid-β Protofibrils and Actions of Anti-Amyloid-β Antibodies as Observed by High-Speed Atomic Force Microscopy. Nano Lett. 2023 Jul 12;23(13):6259-6268. doi: 10.1021/acs.nanolett.3c00187. Epub 2023 May 4. ACS Publicationsからの許可を得て転載。©2023American Chemical Society