AIと超音波で変わる!? 筋病理診断の近未来
筋疾患では、多くの原因遺伝子や筋炎特異的自己抗体の発見により、診断を取り巻く環境は大きく様変わりしてきています。とはいえ、依然、筋生検は筋炎や筋ジストロフィーなどの診断に重要な役割を果たしています。治療可能な筋疾患も増えていることから、正確な筋病理診断が求められます。しかし、筋病理診断には豊富な経験と高い専門的知識が必要である一方で、筋疾患の多くが希少疾患であることから、経験豊かな専門医や病理医の数も限られている点が課題です。
Deep convolutional neural network-based algorithm for muscle biopsy diagnosis. Lab Invest 2022
そこで、近年、深層学習を用いた人工知能(AI)の活用により信頼性の高い筋病理診断に向けた取り組みが進んでいます。まずは、筋炎判別モデルの構築が試みられています。筋レポジトリーから、筋病理、自己抗体、遺伝学的解析から確定診断された自己免疫性筋炎と遺伝性筋疾患、神経原性疾患を加えた1400検体からの4041枚の顕微鏡画像を収集して訓練させて、アルゴリズムを構築しました。このアルゴリズムを用いたAIと筋疾患専門医9人を比較すると、AIがより優れた感度と特異度を達成しました。さらに、限られた条件ですが、自己免疫性筋炎と遺伝性筋疾患の各臨床病型を正確に分類することも可能でした。今後臨床現場への普及が期待されます。
筋病理診断をするためには、侵襲のある筋生検を実施しなければなりません。しかし、近い将来、生検をしなくても、超音波検査とAIを用いることで筋病理診断が可能になる時代が来るかもしれません。
近年、超音波検査は、様々な疾患においてリアルタイムに疾患活動性の評価や治療効果判定を可能にしています。筋疾患も例外ではありません。画像認識と解釈のプロセスにAI技術を導入することで、統合された機械学習アルゴリズムによって、筋病理診断を自動化する方法が検討されています。実際、自己免疫性筋炎や筋ジストロフィーを対象に複数のAIベースの超音波検査モデルが試みられています。一部のモデルでは各シナリオで高い診断精度を達成し、封入体筋炎と皮膚筋炎を正確に鑑別できることを示しました。各種の酵素活性や蛋白発現に関する評価など課題はありますが、さらにAI技術の進化で、病理学的な診断精度の向上が期待されます。
今後、近い将来、AIベースの超音波検査の発展により、筋生検をしなくても筋病理診断を可能にする時代が来るかもしれません。もし実現すると、筋組織レベルでの疾患活動性や治療効果に関する情報を繰り返し臨床現場にもたらしてくれるでしょう。新時代がもうそこまで来ています! (文責 すぎっち)