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認知症医療の未来:予防と治療の調和が拓く新たな道

世界的に認知症患者の増加が懸念される中、日本では2023年6月に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法(認知症基本法)」が成立し、12月にはアルツハイマー病の初の疾患修飾薬が上市され、認知症に対する世間の注目度は高まっています。しかし、低下した認知機能を元通りにする夢の薬はまだなく、認知機能を維持するための患者個人の努力も重要であることは言うまでもありません。

Brain structure and phenotypic profile of superagers compared with age-matched older adults: a longitudinal analysis from the Vallecas Project. Lancet Healthy Longev. 2023

人の認知機能は30~40代ごろから右肩下がりですが、中には20~30歳若い記憶力を持って晩年(80歳以上)を迎えることができる“superager”と呼ばれる人々が一定数存在します。あるコホート研究では、平均年齢80代の高齢者で神経心理検査の記憶領域の成績が20~30歳若いsuperager群と、年齢相応の記憶力を持つ群を縦断的に比較追跡しています。その結果、superager群では前脳基底部や側頭葉内側部を含む脳の複数領域の萎縮速度が対象群と比較して緩徐でした。また、アルツハイマー病の危険因子であるアポリポ蛋白E遺伝子多型や神経変性と関連する血液バイオマーカー(アミロイドβ蛋白、リン酸化タウ蛋白、グリア線維性酸性蛋白、ニューロフィラメント軽鎖)とは無関係である可能性が示されました。さらに、遺伝的要因が大きいことに加えて、歩行速度が保たれること、不安やうつ傾向がないこと、適切な睡眠時間が取れていること、活動的な中年期を過ごしていることなどがsuperagerのcognitive resistanceに関連する重要な因子として推測されています。
認知症の予防とは、発症の確率を下げることだけではなく、認知症になる時期を遅らせ、進行を緩やかにすることも含まれます。認知症医療において予防が重要であることは今更言うまでもありませんが、薬物療法の選択肢が広がりつつある中で、より良い条件下で治療を行うために予防と治療の調和が今まで以上に求められます。認知機能が低下した人を診断して投薬するだけではなく、ライフスタイルの指導や危険因子の除去から、適切な薬物導入時期の見極めなど、認知症医療に携わる脳神経内科医にとってはより総合力と専門性が求められる、やりがいのある時代になろうとしています。ぜひ若い力が認知症医療に加わるのをお待ちしています!

文責:くろちむ