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あなたと周囲の人を守るために大切なこと
~バーンアウトからワーク・エンゲージメントへ~

人生100年時代を迎え、神経疾患は今後さらに増加すると見込まれています。神経疾患の患者さんを支えていくために、脳神経内科医が活き活きと活躍することが大切です。みなさん、活き活き働けていますか?私が若い頃、知識や経験の乏しさに加え、自らのライフイベントが重なり、同年代の医師より遅れているのではないかと不安になったり、また体力的にも厳しい勤務が続き、いろいろな意味で一杯一杯になっていたことがあります。さらに神経疾患は、生命の危険と隣り合わせであったり、ご家族に「Bad News」を伝えなければならないことも少なくありません。そんな時にたまたまモンスターペイシャントやモンスタードクターから心ないことばをかけられ、医師としてもうやっていけないのではないかと不安になったことがありました。今から思うとバーンアウト寸前だったと思います。そんな時、私を救ってくださったのは上司の先生でした。

バーンアウトとは、1970年代に提唱された概念で、対人サービスを提供する職種(医師・看護師・ケースワーカー・教師など)において、元来は活発に仕事をしていた人が「燃え尽きたように」意欲を失う状態を指します。バーンアウトはうつにつながり、最悪の場合、自殺に至ると言われています。米国を中心に『Physician burnout』についての論文が年々増えており、医師のバーンアウトは患者の安全に悪影響を与え、また上司のリーダーシップの質がバーンアウトに影響すると言われています。

バーンアウトを予防するにはいくつかのポイントがありますが、私が大切だと思うのは、愚痴を言い合える相手と職場の温かい空気です。また自分だけでなく周囲にいるスタッフがバーンアウトしないことも大切です。ある日突然出勤できなくなってしまったスタッフがいたと複数の医師から聞きますが、バーンアウトに至る前には、何らかの身体症状を呈する場合が多く、側にいるあなたが、普段と違う様子に気づき、「大丈夫?」と傾聴してあげるだけで、救うことができるのではないかと思います。

本学会は他の学会に先駆けて医師のバーンアウト予防に2018年から取り組み、学会でのシンポジウムやアンケート、ウェブセミナーなどを継続的に開催してまいりました。バーンアウトと対極に「ワーク・エンゲージメント」という概念があります。ワーク・エンゲージメントとはオランダのSchaufeliらが提唱した概念で「仕事から活力を得て活き活きとしている(活力)」、「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」、「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」の3つが揃った状態と定義されています。日本神経学会はすべての脳神経内科医がワーク・エンゲイジメントできるよう、今後もサポートを続けてまいります。

(参考文献)
下畑 享良ほか.脳神経内科医におけるバーンアウトの現状と対策―第1報―.臨床神経,61:89-102,2021
久保 真人ほか.脳神経内科医におけるバーンアウト(第2報).―男性医師と女性医師の比較―.臨床神経,61:219-227,2021
Schaufeli W. Engaging Leadership: How to Promote Work Engagement? Front Psychol. 2021 doi: 10.3389/fpsyg.2021.754556. eCollection 2021.

文責:いくちゃん