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神経難病が治る時代に!-神経難病に対する核酸医薬・遺伝子治療-

 核酸医薬は、低分子医薬、抗体医薬に続く第3の医薬品と言われており、従来の医薬品では治療が難しかった神経難病を根治する可能性を秘めた次代の医療を支える医薬品として期待を集めています。核酸医薬はアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と低分子干渉RNA(siRNA)に大別されます。既に、脊髄性筋萎縮症に対するヌシネルセン(ASO)、遺伝性ATTRアミロイドーシスに対するパチシランおよびブトリシラン(siRNA)、デュシェンヌ型筋ジストロフィ-に対するビルトラルセン(ASO)の有効性が証明され、本邦で認可されています。
 遺伝性疾患は毒性機能獲得型疾患(gain of toxic function disease)と機能喪失型疾患(loss of function disease)に大別されますが、核酸医薬はどちらの病型にも応用可能です。遺伝性ATTRアミロイドーシスは代表的な毒性機能獲得型疾患ですが、核酸医薬によりTTR mRNAを選択的に分解することにより、アミロイド前駆蛋白であるTTRの肝臓での発現を抑制し疾患修飾することができます。一方、機能喪失型の疾患である脊髄性筋萎縮症やデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対しては、pre-mRNAのスプライシングを制御することにより欠損蛋白の発現を増加させる核酸医薬を用いることで疾患修飾が可能です。このように、核酸医薬は特定の標的分子を減少させたり機能的な蛋白を増加させることにより、多くの遺伝性および孤発性の神経疾患に対して応用可能です。
 mRNAを標的とする核酸医薬と異なり、遺伝子治療はウイルスベクターなどを用いて遺伝子を標的細胞に導入する、あるいはCRISPR-Cas9システムなどを用いてゲノム編集することにより、疾患をDNAレベルで治療介入します。
 既に、脊髄性筋萎縮症に対するオナセムノゲンアベパルボベクの有効性が証明され、本邦でも認可されています。本剤は、血液脳関門を通過して中枢神経内に遺伝子導入可能な 9 型アデノ随伴ウイルスベクターにSMN1遺伝子を搭載した薬剤で、静脈内投与により運動ニューロンにSMN蛋白が発現します。遺伝性ATTRアミロイドーシスにおいては、CRISPR-Cas9システムを利用した in vivo ゲノム編集薬であるNTLA-2001の第I相試験が成功し、現在第III相試験が実施されています。
 今後多くの核酸医薬・遺伝子治療が実用化されるにつれ、脳神経内科医による正確な早期診断の重要性が一層高まると考えられます。

(参考文献)
関島良樹.脳神経内科領域の開発途上の薬剤.BRAIN and NERVE 75:427-432, 2023

文責:せっきー