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頸動脈の動脈硬化性プラーク病変に対するプラスチック製品の意外な影響!?

 私たちの生活に欠かせないプラスチック製品、意外な形で人体に影響を与えているようです。
 プラスチックは化石燃料が主原料で、多くの化学添加剤を含んでいます。これらがゴミとして廃棄され分解されると、マイクロプラスチックやナノプラスチック粒子(MNPs)になります(大きさは前者が1µm~5 mm、後者が1nm~1µm)。経時的にサイズは小さくなりますが、自然環境では完全に分解されることなく、海洋、大気、地上に蓄積していきます。このMNPsは、食事や呼吸、皮膚を介してヒトの体内に取り込まれると人体に様々な影響を与える可能性が示唆されています。近年、電子顕微鏡を用いたMNPs検出に関する研究成果の報告が相次いでいます。
 今回紹介する研究(Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events)は、脳梗塞の原因となる頸動脈プラークから検出されたMNPsの影響力を調べています。無症候性の頸動脈プラークに対して頸動脈内膜剝離術を受けた患者のうち、なんと58%でMNPsが検出されました。さらに組織中のMNPs量が多いと将来的な脳卒中と心疾患の発症リスクが上昇する、衝撃的な報告でした。本研究は観察研究であり、MNPsと脳心血管イベントの詳細な関連性については今後の報告を期待したいところです。動脈硬化の管理とは広い意味での生活習慣の再考、さらに環境問題の改善をも含むのかもしれません。
 確かに臨床では抗血小板薬の効果が乏しい頸動脈プラークによる脳梗塞の症例を経験します。大動脈プラークの研究(Angioscopic Evaluation of Spontaneously Ruptured Aortic Plaques)からは、プラークの成分は実に多様(クリスタルを含む!)との事。治療抵抗性プラークの一部はMNPsが関与している?なんて想像してしまいました。
 脳神経内科は?と!が豊富なジャンルです。病態解明、診断、そして治療は日進月歩の勢いで展開しています。皆さんの力で、今わからないことを一緒に解明していきましょう!

文責:もっくん