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近未来の脳神経内科は頭蓋骨から診断し治療する!

 19世紀に骨相学とよばれる学問が隆盛を誇りました。これは人の性格などの脳の機能が頭蓋骨や頭の形に表れるとする学説です。もちろんそのようなことはなく、20世紀以降、疑似科学とされ否定されました。ところが近年、頭蓋骨がふたたび注目され、新たな骨相学の時代を迎えつつあります。

 端緒となったのはCOVID-19の研究でした。頭蓋骨の骨髄内の造血ニッチと呼ばれる部位にSARS-CoV-2ウイルスが多数存在し、頭蓋骨・髄膜結合(skull-meninges connection)と呼ばれる小さな孔を通って脳に到達するということが分かったのです。これは頭蓋骨と脳は直接の相互作用がないという従来の理解を覆す驚くべき発見でした。

 Cell誌に報告されたこの研究は、まず骨髄細胞は骨ごとに不均一で、頭蓋骨のプロテオームは他の骨と比較して明らかに特殊であること、そして驚くべきことに、頭蓋骨には脳に存在するシナプスタンパク質が多数存在することを示しました。つまり頭蓋骨と脳の間には双方向のやり取りがあるということです。

 また頭蓋骨は免疫防御に重要な役割を果たす好中球や単球を保持していることも分かりました。さらに活性化したミクログリアやアストロサイトの存在を画像化するTSPO-PETをアルツハイマー病や脳卒中、多発性硬化症などの神経疾患患者さんに施行したところ、疾患の進行・活動性を反映して頭蓋骨における取り込みの増加が確認されたのです。このことは、頭蓋骨は体表に近い場所にあるため、光音響イメージング技術などの携帯型センサーによって簡単かつ迅速に画像化でき、頭蓋骨を通して神経疾患の早期診断や脳の健康状態の確認ができるようになる可能性を示唆します。それだけでなく、これらの神経疾患に認める神経炎症を頭蓋骨経由で制御できる可能性さえあるのです。おそらく近未来の脳神経内科医は、頭蓋骨をターゲットとした診断と治療を駆使するようになるものと思います。

参考文献:Kolabas ZI et al. Distinct molecular profiles of skull bone marrow in health and neurological disorders. Cell. 2023;186(17):3706-3725.e29.

文責:しもちゃん