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近未来の時代でも生き残っている神経内科専門医

 コロナ感染の真っ只中で開かれた東京オリンピックの開会式で行われたピクトグラムのパフォーマンスは国内外に話題を呼びました。種々の技術が成果を発揮している現代でも人間が人を感動させるパフォーマンスが出来るという人間の意地を見せたパフォーマンスで、人間が競技するオリンピックの開会式にふさわしい演技でした。
 医療の現場にもデジタル技術は浸透し、この「COMMENTARY - これから役立つかも?!」のコーナーでもAIを活用した診療の発展の記事が既にいくつかみられます。ここでうまくAIを活用できればよいのですが、逆に医師の多くの仕事はAIにとって代わられるのではないかという見解を目にするようになっています。これはレジデントの諸君にはこれからの専門を決める際に重要なポイントになってくるものと思います。特に内科診療の場合、患者さんに症状や経過を自宅のデジタル端末からコントロール機関に送信して、どの病院を受診すれば良いか、検査、鑑別診断、治療法、費用などをAIが即座に提示できれば、スクリーニングをする初診医は不要で直ちに専門医を受診すればよくなります。さらに、AIが示した検査を患者さんが自分でオーダーして検査を受け、検査の結果をAIに聞いたりすれば、医師の出る幕はありません。AIが下した診断と治療方針に従って医師がただ言われたままに治療したら、別に医師が実行しなくてよいとなります。外科ですらAIがダビンチをプログラミングして動かすことも想定され、放射線科医や病理医は、AIに置き換えられているかもしれません。このような時代に、まだ誰もAIが神経診察できるという意見を言っていません。ChatGPTで神経診察を検索すると「神経学的診断の精度向上や効率化、患者ケアの改善が期待されています」と出てきて、画像診断、患者データの分析、運動解析、症状の記録と解析、医療文献の解析、診断支援ツール、患者教育とサポートなど補助的な利用に関する記事のみです。多義語からなる症状を正確に分析し、意識、脳神経、運動系、感覚系、自律神経のあらゆる所見を相対評価をしつつ病的かどうかを判断する技術をAIがこなすことは基本的に不可能と考えられます。近未来において図のような診察用の道具を使いこなす神経内科専門医はその地位をAIに脅かされることなく保っていると考えられます。

参考文献
CLINICAL NEUROSCIENCE 38 11月号 2020年 神経症候学と神経診断学―AIは味方か敵か?

文責 ヒロくん