パーキンソン病におけるiPS細胞移植治療は近い将来の実用化が期待されています!
パーキンソン病(PD)は、動作緩慢、筋強剛、静止時振戦の特徴的な運動症状と、便秘、嗅覚障害、レム睡眠行動障害、認知症など様々な非運動症状を呈する神経変性疾患です。PDの背景病理はαシヌクレインの沈着で、運動症状は中脳黒質のドパミン神経細胞脱落により発現します。
PDの新しい治療法として iPS 細胞 (induced pluripotent stem cell, 人工多能性幹細胞)を用いた治療が注目されています。iPS治療とは、iPS細胞を分化誘導して特定の機能を持つ細胞を作成し移植することで機能不全に陥った細胞を置換して機能を回復させる治療法です。iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いた臨床試験は、日本では2018年に京都大学医学部附属病院がスタートさせ、7人の患者への移植を完了しており結果の発表が待たれるところです。米国では、2024年1月にカリフォルニア大学サンディエゴ校で京都大iPS細胞研究財団から提供されたiPS細胞を用いた医師主導臨床試験が開始されました。PDにおけるiPS細胞移植治療は、近い将来に実用化されることが期待されています。
一方、順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センターの共同研究グループは、異常なミトコンドリア恒常性を示す家族性PD患者由来のiPS細胞から作製したドパミン神経細胞を用いた病態検出システムの自動化に成功しましたhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7355139/pdf/main.pdf 1)。一度に多くの薬剤スクリーニングが可能となり、iPS細胞の病態を改善させる4種類の候補薬を同定しました。さらに同定された薬剤がPDモデル動物のショウジョウバエと一部の孤発性PD患者由来細胞に対しても病態改善効果を持つことを確認しました。原因遺伝子と細胞表現型が明らかな家族性症例の細胞を用いて同定した化合物が、PDの大部分を占める原因不明な孤発性症例由来の細胞でも効果があるという結果は、PDにおけるiPS細胞を用いた創薬の有用性を示唆しています。今後、PDの新たな治療薬が期待されます。
1)Yamaguchi A, Ishikawa KI, Inoshita T, Shiba-Fukushima K, Saiki S, Hatano T, Mori A, Oji Y, Okuzumi A, Li Y, Funayama M, Imai Y, Hattori N, Akamatsu W. Identifying Therapeutic agents for amelioration of mitochondrial clearance disorder in neurons of familial Parkinson disease. Stem Cell Reports. 2020 Jun 9;14(6):1060-1075.
(文責:むーむ)
Key word: パーキンソン病、iPS細胞、治療、創薬、PDモデル動物