脳を掃除するしくみ:グリンファティックシステムとは何か
神経変性疾患の多くは、特定の蛋白質が脳内に異常蓄積することで発症・進行すると考えられており、それらの蛋白質は治療標的ともなっています。これまでは異常蛋白質の産生や分解に関する研究が盛んに行われてきましたが、近年では“脳のごみ収集”、すなわち排出経路にも関心が集まっています。
体内の老廃物除去を担うリンパ系は全身に存在しますが、脳内には存在しないとされ、長らく脳の老廃物の排出経路は不明でした。ところが近年、グリンファティックシステム(glymphatic system)という排出経路が提唱され、注目を集めています。脳脊髄液がくも膜下腔から動脈周囲の血管周囲腔を通って脳内に流入し、アストロサイトのアクアポリン4チャネルを介して脳実質に入り、老廃物を洗い流して静脈周囲の空間から排出されるという仕組みです。批判的な見解もあるものの、この経路は髄膜リンパ管(meningeal lymphatic drainage)と連携し、脳の恒常性維持や神経疾患の病態形成に関与していると考えられています。
グリンファティックシステムの障害により、アミロイドβ、タウ、αシヌクレインなどの排出が妨げられ、脳内蓄積が増加することが動物モデルで示されています。ヒトでは可視化、定量評価する方法は未確立ですが、MRIによる非侵襲的な評価法が提案され、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病患者での機能低下が報告されています。
では、この“脳のごみ収集システム”はどうすれば活性化できるのでしょうか?明確な答えはありませんが、動物実験では運動が排出促進に寄与することが示されています。また、睡眠、とくに深いnon-REM睡眠時にグリンファティックシステムの機能が高まることも知られています。加齢により生理的に深睡眠は減少し、これが老廃物の蓄積、神経変性に関与する可能性があります。睡眠障害は多くの神経変性疾患でみられますが、それは単なる症状ではなく、病態そのものに関与しているのかもしれません。このように、グリンファティックシステムの理解は、神経変性疾患の新たな病態解明や治療法の開発につながる可能性を秘めています。
参考文献:Nedergaard M. Neuroscience. Garbage truck of the brain. Science. 2013 Jun 28;340(6140):1529-30. doi: 10.1126/science.1240514. PMID: 23812703; PMCID: PMC3749839.
https://www.science.org/doi/10.1126/science.1240514
文責:もりくん