ゲノム医学のすすめ~家系研究からゲノム創薬まで~

「家系研究は究極のFamily Medicineである」家族性疾患の原因遺伝子同定に向けた研究がなかなかうまくいかず悩んでいたときに、指導してくださっていた先生から声をかけられた言葉です。「家系研究においては世代を超えてその家系に寄り添っていく姿勢が大事である」と教えられ、短期的な成果にはやることなく、じっくりと研究に取り組む気持ちを新たにしました。
それから紆余曲折はあったものの、全ゲノム解析など「ゲノム医学」の最新の技術を駆使して、ようやく原因遺伝子同定にたどり着くことができました。当直明けの朝、最後のデータを解析し終わって結論づけたときの、なんとも言えない感情、「やばい」としか言いようのないあの感覚は、苦労して研究を続けてきたものだけが味わえる、一種独特な体験でした。一度でもこの感覚を味わうことができれば、これはまさに研究者冥利に尽きると言えます。若手脳神経内科医の皆様には、是非研究にもチャレンジいただいて、この「やばい」感覚を味わっていただきたいと思います。
しかしながら、原因遺伝子同定が家系研究のゴールではありません。家系研究を行う際に強く感じるのは、なんとかしてこの病気を治す方法を見つけてほしい、たとえ自分には間に合わなくても、子や孫の世代には治るようになっていてほしいという、患者さんやご家族の痛切な願いです。それも含めて「究極のFamily Medicine」なのだと思います。そしてその思いが、まさに研究を駆動する原動力となっています。
幸い近年では、原因遺伝子変異の同定が、単なる「診断」に留まらず、根本的な「治療」に直結する時代になってきました。遺伝性疾患は、原因が「単一」であるが故に、より根本的な病態にアプローチしやすい疾患であると言えます。また、孤発性疾患においても様々な遺伝的要因が同定されており、有望な創薬シーズを探索する手がかりが得られています。さらに、最新の創薬研究においては、ゲノムの情報を基盤として、プロテオミクス・メタボロミクスなどのいわゆる「オミックス」研究やCRISPERスクリーニング、そしてAlphaFoldを代表とするAIなど最先端の技術が投入され、着実に成果が挙がりつつあります。まさに「ゲノム創薬」が一気に花開こうとしている時代であり、今後もその流れが加速していくことは確実です。そのためにも、目の前の患者さん一人一人の原因を解明していこうとする、地道なかつ継続的な努力が求められます。
ゲノム医学は理論的な側面が強く、ともすれば無味乾燥な学問と感じがちですが、ゲノム医学の発展の根底には、家系研究に代表される血の通った患者・家族―医師・研究者関係があり、目の前の患者さん・家系に寄り添って、ともに病気の原因を解明して克服していこうとする協働作業が存在します。一緒に病気を克服する志を持った若手の方が、一人でも多くこの道に進んで頂けることを期待します。
1.Posey JE, O'Donnell-Luria AH, Chong JX, Harel T, Jhangiani SN, Coban Akdemir ZH, et al. Insights into genetics, human biology and disease gleaned from family based genomic studies. Genetics in Medicine. 2019;21(4):798-812.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30655598/
2.McDonagh EM, Trynka G, McCarthy M, Holzinger ER, Khader S, Nakic N, et al. Human Genetics and Genomics for Drug Target Identification and Prioritization: Open Targets' Perspective. Annual Review of Biomedical Data Science. 2024;7(Volume 7, 2024):59-81.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38608311/
文責:MMTは筋トレみたいなものです