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未来の脳神経内科 『脳と腎をみつめて』

 神経系は全身に張りめぐらされ、当然ながら全身の諸臓器との連関が重要です。たとえば心臓は脳梗塞の大きな原因となり得る異常を秘めた臓器で、ここを知らなければ脳卒中診療が成り立ちません。一方で、心臓と腎臓はともに循環を司る臓器として、その相関関係が多く研究されています。では脳と腎臓は? 手元にある神経学教科書(やや古い)を何冊か、目次や索引など確認すると、他臓器に比べて腎臓が現れる頻度はだいぶ低そう。

 たしかに修練医時代を振り返れば、造影検査施行時など以外は、腎機能を確かめることが少なかったようです。2010年代に非弁膜症性心房細動に対して直接作用型経口抗凝固薬を頻用するようになった頃から、服用患者の腎機能を気にする脳神経内科医も増えてきました。脳と腎臓の連関は、薬剤用量の問題のみでなく、より本質的な両臓器の疾患の因果関係、脳疾患治療における腎機能の影響などに及びます。たとえば腎機能障害は脳梗塞発症の独立した危険因子で、とくにアジア人で両者の関連性が強い。両疾患に共通する動脈硬化危険因子に加えて、慢性炎症や血栓性要因など慢性腎臓病に特有の危険因子や、透析治療に由来する危険因子が脳梗塞発症の危険を高めます。また腎機能障害は脳梗塞慢性期自立度の独立した危険因子でもあります。慢性腎臓病の進行を防ぐことが、脳卒中発症予防に繋がります。
 さらに治療抵抗性高血圧に対する腎交感神経除神経術(腎デナベーション)が国内でも承認され、今年(2026年)のうちに保険償還される見込みです。腎動脈周囲の交感神経をカテーテル治療で焼灼、遮断してその活性を抑えることによって、血圧を下げます。脳卒中最大の危険因子への強力な治療手段となりそうです。
 全身をめぐる神経系の診療に際して、全身の臓器にも目をやりその連関に思いを馳せるのは、素敵なことだと思います。

参考文献:
1.Kelly DM, Kelleher EM, Rothwell PM. The kidney-immune-brain axis: the role of inflammation in the pathogenesis and treatment of stroke in chronic kidney disease. Stroke. 2025 Apr;56(4):1069-1081.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39851054/
2.Miwa K, Koga M, Nakai M, et al. Etiology and outcome of ischemic stroke in patients with renal impairment including chronic kidney disease: Japan Stroke Data Bank. Neurology 2022 Apr 26;98(17):e1738-e1747
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35260440/

(文責)Emil S.