脳神経内科医は、脳を通して全身と未来を診る医師である

脳神経内科医は、神経診察を駆使することで、症状の責任部位を推定し、疾患の質的な診断へとつなげ、患者さんに対して何ができるかを考えます。認知、歩行、姿勢制御、情動、自律神経などは、単一の部位だけでは説明しきれないのですが、これらを複数の脳領域が関わるネットワークの問題として捉えると、病態の理解、そしてアプローチの可能性が大きく前に進みます。
ネットワークの視点は、発症予防を考える上でも重要です。アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では、病変が始まってもすぐに症状は出ません。そこには残存神経による機能代償、神経伝達物質系の再調整、ネットワーク再編成などが存在します。発症とは、病変の開始ではなく、代償機構が限界に達した瞬間なのかもしれません。
さらに、ネットワークは脳内だけに完結しません。脳は五感や内受容感覚の情報を受け取り、外界と身体内部を統合しています。五感は神経系が世界と身体をつなぐ入口であり、神経変性疾患の早期変化を映す窓でもあります。アルツハイマー病では複数の感覚を統合するナビゲーション機能が最初期に低下し、パーキンソン病では運動症状に先行して嗅覚低下がみられます。
神経系は、エネルギーを通しても全身とつながっています。脳は膨大なエネルギーを必要とし、シナプス活動、長い軸索の維持、持続的発火、可塑性維持には大きなエネルギーが必要とされています。アルツハイマー病やパーキンソン病では広範なエネルギー代謝異常が関与し、その是正が画期的な治療法や予防法開発につながる可能性があります。
未来の脳神経内科は、発症前あるいは最初期にリスクを捉え、進行を予測し、介入する方向へ進むと予測します。しかし今この瞬間も、目の前の患者さんに対して、脳神経内科医は「これからどうなるか」「何を守れるか」を考え続けています。代償機構がまだ働いているうちに何ができるか?その問いが、個の未来と医学の未来をつなぐのではないでしょうか?
脳神経内科医は、脳を通して全身と未来を診る医師である。
文責:なべちゃん